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2012年度 第7号 ペーター・ゲスナー


2012年12月10日 月曜日
演劇専攻/ペーター・ゲスナー准教授

三専攻合同公演/オペラ実習試演会『フィガロの結婚』

本学では、現在、演劇専攻、音楽専攻、ステージ・クリエイト専攻による来年行われる合同公演に向けて準備を進めています。三専攻合同公演としては、せんがわ劇場で1月31日から2月3日までボーマルシェの風刺戯曲『フィガロの結婚』を、また音楽専攻では同劇場で専攻科の授業・オペラ実習試演会としてモーツァルト作曲『フィガロの結婚』を3月7日に上演いたします。日頃から本学では専攻の垣根を越えた取り組みを行っており、これが本学ならではの特徴となっています。私は今回、両公演の演出・演技指導を行っています。

モーツァルト作曲による『フィガロの結婚』は、世界中で最も有名なオペラの一つであり、250年前に上演されてから今もなお、多くのファンを魅了し続けています。
オペラ『フィガロの結婚』初公演の地はパリ。フランス革命が起きる3年前のことです。その当時、パリ市民の娯楽の一つとなっていたオペラですが、中でも『フィガロの結婚』は、とりわけ好評を博したといいます。その理由は、絶対的階級社会であったフランスにおいて、貴族を痛烈に皮肉ったこのオペラが市民の憂さ晴らしになったからです。原作者であるボーマルシェはアメリカの独立を支持する革新派の一人。封建社会を皮肉る思想がこの作品にも色濃く反映していたのです。また、作曲家モーツァルトもいわずと知れた奇行家。ボーマルシェの作品の魅力を余すことなくオペラに仕立てました。この作品の評判はオーストリアにも伝わり、皇帝からウィーンでの上演を許可されるという異例の事態に。劇場からもれ聞こえる音楽を市民は口ずさみ、誰もが愛するオペラへとなっていくのです。

さて、この作品の魅力は、人間らしさであると私は感じています。夫婦生活に倦怠感を抱いていた伯爵は思いを寄せる娘を自分のものにするため、撤廃していた初夜権を復活させようとたくらみ、伯爵の妻や伯爵の家来の婚約者、伯爵の小姓他多数の登場人物を巻き込んで物語は進んでいきます。その中で、各登場人物は人間が本来もつ欲望や憎しみ、哀しみ、愛情などを大胆なほどに露わにします。その生々しさは、観る者の心を開放してくれます。そして現代では伯爵の行為は犯罪ものですが、フィナーレでは誰もが許しあい、認め合い、夫婦や恋人、主従関係など本来の穏やかな関係に納まってハッピーエンドに終わるのです。
また別の視座に立つと、今の時代は物事の白黒はっきりさせる、合理化、効率性などが求められていますが、その昔は白黒はっきりしないものも容認される余裕がありました。この作品にあるように、容認する、受け入れる行動の背景に、人への「愛」「寛容」があるからだと考えます。他者を許すこと、受け入れることの大事さをこの作品はまた、教えてくれているようにも思います。時を経てもなお、この作品に飽くことなく魅力を感じるのは、忘れかけていた人間らしさ、人間性の回帰を本能的に求めているからかもしれません。

本学で学ぶ若干20歳の学生たちは、この味わい深い作品に触れることで人生の機微、人としてのあり方を学びとってくれることが私たちの願いでもあります。楽しさだけを味わうために演劇があるのではない。人間教育―これが本学の芸術教育の特徴といえるでしょう。

調布市せんがわ劇場指定地域連携事業
2012年度三専攻合同公演 / 専攻科演劇専攻修了公演

ポーマルシェ・作/木村 光一・台本
ペーター・ゲスナー・演出『フィガロの結婚』
公演内容の詳細はこちらから
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