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大学案内

2013年度 第9号 野口千代光


2013年10月28日 月曜日
音楽専攻/野口千代光(非常勤講師)

音楽を勉強するということ

みなさんが「音楽」を習い始めたのはどんなきっかけだっただろうか。
いわゆるお稽古事の一つとしてピアノやヴァイオリンを習い始めたり、中学校のブラスバンドに入ったのがきっかけでその時に巡り合った楽器とともにアンサンブルの楽しさに出会ったり、歌うことが大好きで合唱部に青春を捧げ、そこから声楽の道を志すことになったり・・・・人それぞれが自分の身近に「音楽」を感じることで喜びを持ち、生活の一部としての「音楽」を重要なこととしてとらえていると思う。

では、音楽専門の教育機関で「音楽」を勉強する目的は何だろうか?
習い事の「音楽」であれば、日々自分で一生懸命練習し、週に1度くらいのレッスンによって、ある程度の上達を見込むことができる。しかしながらそれだけでは自分の楽器演奏のスキル向上にしか目を向けないこととなり、「音楽」全体を見据えた勉強には到底及ばない。

優れた表現者を目指すためには、演奏以前の音楽的な基礎的トレーニングが当然必要であるし、作曲家の時代背景を学んでそれぞれの作曲家の様式観を学び、表現につなげていく必要もある。また音楽を一人で演奏するような機会は非常に限られた機会であり、人と合わせるアンサンブル能力は一緒に勉強する同志がいないとなかなか上達が見込めない。

そのためには自分の専門とする楽器以外の知識を習得することも大切だし、何よりも人と一緒に何かを創り上げていく際に、その人とのつながりを上手に求めていく「心」を大切にして、どのように「心の対話」を求めていくかなどを試行錯誤しながらも学生生活のなかで体得していく必要があるのである。

桐朋の音楽教育では、少人数ながらも「少人数=1人ひとりの活躍の機会が多い」という図式が出来上がっており、常に授業への積極的な参加が求められ、授業への準備に追われる大変忙しい学校生活のなかでも、人から必要とされる喜びをも感じていくことができると思う。

「音楽」の勉強をするにあたって、もちろん机上の勉強も大切だが、「音楽」を「人に伝えるメッセージ」の手段としていくためには、やはりさまざまな実地訓練が必要となる。そういった意味でも桐朋教育では非常に柔軟なプログラムが組まれていると感じる。やる気のある学生にとって、さまざまなチャレンジのチャンスが無限にいっぱい詰まっているのだ。

一方、卒業後のことも見据えていかなければならない。学生生活の中で学んだことを、今度はどのような形で社会に役立たせていくか考えていく必要がある。学生の間は「音楽」の勉強の目的が、『レッスンや授業、さらには試験で上手に演奏できるように』ということばかりに目が行きがちで、卒業後の目標を見失ってしまう場合も多くある。

大切なのは自分が学んだことを用いて、社会のために何かしら貢献できるようになることである。何かの役に立つということは人と人とをつなげるエネルギーを生み出すことでもあり、人から必要とされる人間になることでもある。自分が好きで一生懸命やっていることが、人から必要とされることとつながったら、それは素晴らしく人生が充実していくことになり、自分の存在意義も高まっていくのである。「音楽」を用いて社会とどうつながっていくか、その無限の可能性を探していく時間を短大生活の間に見出せると良いのではないか。その未来への可能性を見出すために、私もサポートができるよう努めていきたい。

野口千代光(ヴァイオリン奏者)プロフィール

東京藝術大学在学中にジュリアード音楽院へ留学。ジュリアード・コンチェルトコンペティション優勝。アーティスト・インターナショナルオーデション優勝、ヤングアーティスト・デビュー賞を受賞。カーネギー・ワイルホールにおいてニューヨークリサイタルデビュー。ジュリアード音楽院卒業後、東京藝術大学を首席で卒業。フォーバルスカラシップ・ストラディバリウスコンクール入賞。ヴィニアフスキ国際ヴァイオリンコンクール特別賞受賞。東京オペラシティ主催のリサイタルシリーズ「B→C」に出演。ソリストとして国内外のオーケストラと共演する傍ら、在京オーケストラのゲストコンサートミストレス、アンサンブル・コルディエ(旧東京ゾリステン)コンサートミストレス、紀尾井シンフォニエッタ東京メンバーとして活動している。
また現代音楽の演奏にも力を入れており、アンサンブル・ノマドのメンバーとして数多くの現代作品の演奏を行っている。ビクターエンターテインメントからCDアルバムをリリース。
2009年3月まで桐朋学園芸術短期大学で専任教員として勤務。現在は、東京藝術大学演奏藝術センター准教授、桐朋学園芸術短期大学非常勤講師を務める。

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